■利益額で会社の評価をするのは危険

「良い会社」という言葉は、様々な意味で使われますが、「儲かっている」という意味で使われる場合も多いでしょう。では、会社が「儲かっている」か否かは、どうやって判断するのでしょうか。

 

塚崎パン株式会社が100万円のパンを仕入れて110万円で売って10万円儲けたとします。巨大パン屋が100億円のパンを仕入れて100億20万円で売って20万円儲けたとします。利益額は塚崎パンの2倍ですが、どう考えても塚崎パンの方が「良い会社」ですね。

 

要するに、儲かっているか否かは、利益額だけを見ても判断出来ないので、率で考える必要があるという事です。では、何に対する率で考えれば良いのでしょうか?売上高に対する率なのか、資本金額に対する率なのか、等々。これを比べるのは、実は簡単な事ではありません。業界が違うと、それによって数字が大きく変わって来るからです。自分の会社の過去と比べる時は良いのですが、他社と比べる時には、十分な注意が必要です。

 

■売上高利益率は、薄利多売か否かでも差

利益を売上高で割った値は、売上高利益率と呼ばれ、よく使われる指標です。コツコツと手間暇かけて物を作る会社があり、材料費や人件費などのコストが80万円で、売値が100万円だとします。利益は20万円ですから、売上高利益率は20%です。経営を工夫して、翌年はコストが79万円に減れば、利益は21万円に増え、利益率は21%に上がりますから、「去年より儲かった」と素直に喜んで良いでしょう。

 

もっとも、会社ごとの比較には注意が必要です。これを100万円で仕入れて電話1本で買い手を探し、105万円で売って5万円儲ける会社があるとすれば、後者の方が売上高利益率は低いですが、うまく儲けていると言えるでしょう。

 

今ひとつ、商売の方針によっても異なってきます。塚崎パンが100万円で仕入れたパンを110万円で売って1週間で10万円儲けたとします。同じ時に、ライバル企業はパンの安売りをして、100万円で仕入れたパンをその日のうちに105万円で売って5万円儲け、翌日も翌々日も同じように5万円ずつ儲けたとすると、売上高利益率は塚崎パンの方が多いですが、1週間の儲けはライバルの方が多いので、ライバルの方が上手に儲けたと言って良さそうです。

 

■ROAは資金を効率的に利益に結びつけたかを見る

ROAというのは、純利益をバランスシートの左側(=右側。総資本とも総資産とも呼ばれる)で割った値のことで、総資産利益率または総資本利益率と呼ばれます。「株主や銀行から巨額の資金を調達した割には利益が少ない」といった事を考える材料として使われます。もっとも、これも他社と比べる場合には十分な注意が必要です。

 

工場を持っている製造業と、ほとんど資産を持たずに登録された労働者を企業の求めに応じて派遣する人材派遣会社では、利益額が同じでもROAは大きく異なるでしょう。

 

同じ飲食店でも、自分で店を持っている会社と店舗を借りて営業している店では、ROAは大きく異なるでしょう。ちなみに、店舗を持っている会社は建物の減価償却費や建設費借入の利払いなどがあり、店舗を借りている会社では家賃の支払いがあるため、利益額はそれほど異ならないと思われますが、割り算の分母となる総資産(=総資本)は全く異なりますから。

 

■ROEは、株主の資金を効率的に利益に結びつけたかを見る

ROEというのは、純利益をバランスシートの右下(純資産とも株主資本とも自己資本とも呼ばれる)で割った値のことで、株主資本利益率または自己資本利益率と呼ばれます。「株主から巨額の資金を調達した割には利益が少ない」といった事を考える材料として使われます。もっとも、これも他社と比べる場合には十分な注意が必要です。

 

ROEを他社と比べる時に、最初に影響するのは「ROAが高いか否か」です。仮に両社とも銀行借入が無いとすると、バランスシートの右下の金額はバランスシートの右側全体の金額と等しいわけですから、ROEはROAと等しくなるのです。当然、ROAが高いか否かがROEに大きな影響を及ぼすことは明らかでしょう。

 

ROEを考える際に、ROAと並んで重要なのは、「銀行からの借金が多いか否か」です。ROAが同じだとします。銀行借入がゼロで、右側が全額自己資本の会社と、銀行借入と自己資本が半々の会社があったとします。ROAが同じならば、後者の会社の方がROEが2倍になるのです。

 

100万円のパンを仕入れて110万円で売って10万円儲けた会社があるとします。仕入れ代金の100万円が全額自己資本であった場合には、ROEはROAと同じ10%です。同じように100万円のパンを仕入れて110万円で売って10万円儲けた会社があったとして、仕入代金の50万円が自己資本で残り50万円が銀行借入であった場合、ROAは10万円を50万円で割った20%となります。

 

極端な場合、自己資本が10万円で銀行借入が90万円であった場合には、ROEは100%になるわけです。もっとも、銀行借入の金利を払うと利益は10万円より少ないかもしれませんが。

 

■ROEを高めようとしすぎると倒産リスクが高まるかも

本業が全く同じで、ROAが同じ会社でも、銀行借入が多くて自己資本が少ない会社はROAが高いということが上でわかりました。株主としては、ROEが高い会社は好ましいです。少しだけ資金を出せば多くの利益が得られるわけですから。

 

そこで、最後の数値例のように、たとえば自己資本を10万円にして90万円を銀行借入で賄おうとします。そうなると、大きな問題が生じます。100万円で仕入れたパンが売れ残って、結果として「現金80万円と売れ残って腐ったパン」が手元に残ったとします。そうなると、借金90万円が返せないので、会社は倒産してしまうのです。

 

会社が倒産しても、株主は10万円しか損をしませんので、パンが腐って損をした分のうち10万円は銀行の損になります。しかも従業員が路頭に迷うことになるわけです。

 

株主としては、本来自分が損するはずだった分を銀行に押し付ける事ができたわけで、ホッとしているのでしょうが、銀行としてはとんだ大損です。そこで銀行としては、そうした目に遭わないために、用心します。「株主は10万円出すから、90万円貸して欲しい」と言われても、断るのが普通です。

 

もっとも、最近の銀行は、借りてくれる会社が少なくて困っていますから、そういう危険な会社にも貸してしまうかも知れません。もしも銀行が貸してしまうと、会社の倒産のリスクが高まりかねない、という事は覚えておきましょう。

 

 

今回は、以上です。なお、本稿は厳密性よりもわかりやすさを優先していますので、細部が不正確な場合があります。事情ご賢察いただければ幸いです。


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